東京地方裁判所 昭和40年(ワ)2366号 判決
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〔判決理由〕而して本件建物にはこれよりさきに訴外東京産業信用金庫のため金三五〇万円の根抵当権が設定されてあり、昭和三九年四月二五日右金庫からの申立に基き東京地方裁判所において競売開始決定がなされ、同月二七日その旨の登記手続がなされたことは、前記の通りであり、<証拠>によれば、右競売申立直前前記金庫より当時本件建物を賃借中の被告会社に対し、金庫が本件建物につき根抵当権を有し、競売申立の予定であることを告げ、被告会社において本件建物を買取るか、又は被担保債務を弁済するよう注意のあつたこと、及び被告両名主張のような経緯で、訴外小栗繁盛、同株式会社福田地銅店及び被告会社間に昭和三九年二月二二日示談が成立した事実に鑑み、本件家屋の所有者である訴外東神工業有限会社は倒産し、到底前記金庫に対する債務の返済の資力のないことを当時被告浜口において知悉していたことが認められ、従つて担保権者である東京産業信用金庫の前記申出でを拒否すれば、本件家屋の競売は必至であるから、遅くとも昭和三九年七月九日原告より金三〇〇万円の保証金を受領して本件建物を引渡した当時、被告浜口は本件家屋につき競売手続が進行していることを知つていたものと推認される。
してみれば原告が金三〇〇万円の保証金を出捐して期間一〇年の約で本件家屋を賃借しても、いくばくもなく競落人によつて追いたてられ、その目的を達しないであろうことは、法律上明らかであるから、被告浜口はこれを知つていたか、少くとも知りうべかりしものであつたと謂うほかはない。
被告らは、かようは事柄は専門の法律知識を持たぬ者にとつては考え及ばぬところであり、被告浜口も同様であつて、同被告は競売が実施されても、原告の賃借権は競落人に対抗しうると信じていたものであつて、故意過失はないと抗争するけれども、法律の不知、誤解は、特段の事情がない限り、故意過失を否定するものではないと解すべきところ、被告主張の本件家屋についての訴外小栗繁盛の賃借権の取得、被告会社の賃借権の取得及び訴外株式会社福田地銅店との示談成立等の事情は、右の特段の事情と認めるには不充分であり、又さきに触れた通り、被告浜口より原告に対し「福田地銅店との示談のいきさつや東京産業信用金庫が、担保権を有していることを告げたとか、又同金庫が、担保権実行の予定であるが、本件家屋を買取るか、債務を弁済してはどうかの注意があつたことを伝えたとの事実や本件建物につき現に競売手続中であることを告げたとの事実」は、当裁判所の肯認しないところであって、他に被告らより特段の事情の主張立証のない本件においては、被告らの抗弁は採用できない。却つて原告の賃借権が競落人斎藤利喜に対抗しえないことは、明文の存するところであり、且又本件の場合原告が引渡命令によつて建物明渡の強制執行を受けることも法理上明らかであるところ、被告浜口が競売手続中である事実すら告げずに、原告より金三〇〇万円を出捐せしめたことは、被告浜口に故意若しくは少くとも重大な過失があつたものと謂うほかはない。
してみれば原告は被告浜口の右行為により、前記の通り結局金二七二万五〇〇〇円の損害を受けたのであるから、被告浜口は民法第七〇九条に基き原告に対しその損害賠償の責に任ずべきであり、又右損害は被告会社の取締役である被告浜口が被告会社を代表してその職務を行うにつき原告に与えた損害であることは、上来認定したところにより明らかであるから、被告会社も又これを賠償すべきである。(室伏壮一郎)